有機栽培
福岡県うきは市でお茶を有機栽培なさっている新川製茶の樋口さんも、最初に農薬をやめられたきっかけは、ご自身の体調不良だったそうです。農薬はそれを使う農家の方の体にも影響するんですね。
有機農産物を選ぶ人が増えれば、有機栽培を選ぶ農家が増えます。もちろんそんな単純なことではないと思いますが、つくる人とそれをいただく人がおたがいを思い合う、そんな社会になればいいと思います。
【消えてゆく生産者たち】
生産者さんが暮れの挨拶を兼ねて、残った玄米を売るために来社される今日この頃。現在の生産者さんたちは長年の取引関係の方ばかり。
取引の長い生産者さんでは60年近くのお付き合いの方もいらっしゃいます。皆、ご他聞に漏れず高齢ですので、今年もお顔を拝見して息災を確認ということになりますが、ここ5年くらいで、急速に世代交代が進んできました。
最近、農産物の持ち込みをされる馴染みのおじいさん、おばあさんではなく2代目、3代目の世代。先代の代わりに来られたご子息さんに、「お父さん、お母さんはお元気ですか?」とお聞きすると、「去年、亡くなりました」、「この夏に亡くなりましたというお答えがほとんどです。それも、亡くなられた病気の原因が皆ガン死ばかりで、特にすい臓ガンか肝臓ガンに偏っています。
今から、20年くらい前、ハウス栽培や水田作業などで、生産者さんが農薬を撒かれると禁酒されことをよくお聞きしたことがあります。「いや~、農薬撒いた日は、酒飲んだらだめだよ。だって、肝臓が弱っているから、そんな状態で酒飲んだら、翌日はしんどくて、起きられないから」。そんなことを言う馴染みの生産者さんは非常に多かったこと記憶しています。
もともと、農作業などの土を扱う労働は非常に過酷で、体全部の生気というか脂分が全部なくなってしまうような独特の疲労感があります。あまりの疲れで夜中じゅう体が悲鳴を挙げて、体中の倦怠感の塊になり、寝られるような状態ではなくなります。
でも、専業で従事されている生産者の場合は翌日も同じ作業が待っているので、酒を飲んで酔っ払い、その勢いで睡眠を取っている人が多い。ですから、生産者さんは平均酒豪で、酒好きです。メシより酒を愛する人も多い。だが、そんな酒好きが、体が辛くて酒が飲めない。
この事実を見聞きして、今の農業、農法自体が体に負担を掛けていることがおぼろげながら理解していましたが、皆呼び合うように、この10年くらいでバタバタと亡くなっていくのを見ると薄ら寒い思いをしています。
ある日、私の友人の医者との会話で以前に次のようなことを言われました。「今、日本で1番短命な仕事知っているか?」と聞かれ、「う~ん、建設作業員かな。理由は重労働だからか」と当たり前の答え。
だが、その友人曰く、「いや、農業と漁業だよ」と意外な答えが。「なぜ?あんなに自然の中で暮らして、仕事できたら長寿でしょう?」と聞き返すと、「現代の農業、漁業は昔の収穫すれば良いという自然収穫型と違い、人工的な栽培、養殖が主な仕事なっています。
ハウスや生簀を作り、植物、魚を管理して、エサや薬を与えて、計画的に出荷する作業となっている。そのため、病気や雑草、生簀の網の藻が張ることや、船の船底の牡蠣殻を防いだりするために、自然にも、人間の体をも無理をする作業が多い。そのために、寿命が短くなっているようだ。」と説明をしてくれましたが、其の時はまだ半信半疑で聞いていましたが。
そういう理由は別にして、現在の日本での農作物の収量は戦前と比較できないほど多くなり、季節に関係なく様々な野菜や果物などが店頭に並んでいるし、夏の野菜や果物も冬場でも当然のごとく店頭にならんでいる。一方では、この日本では、食べ残しなどの食物の廃棄率は世界でもトップクラスらしい。これでは、生産者は、食べられないままに処分される農産物を作るために、自分の体と引き換えに作っているようなものです。
21世紀では大量生産大量消費は止めて、必要な分だけを作るエコが叫ばれていますが、食べ物はある意味一番簡単エコできる品物だと思います。旬の野菜、果物、魚だけをチョイスすれば良いのです。無いものねだりをしなければ、生産者も消費者も案外簡単に安全、安心が手に入ると思います。自然の物を自然にできる時期に、自然のままに、必要な分だけいただく。これが今求められていると思います。
岸田農場・農林業フリーライター
岸田 稔
*写真はイメージです。
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