| 今年(2000年)59才になる樋口さんがお茶の無農薬栽培に取り組みはじめたのは昭和58年。今から20年近く前のことだ。農薬を使わなくなったのは、農薬を撒いていて自分自身の体調が悪くなったことがきっかけだった。元々は「消費者のためじゃなかった」
樋口さんは「自分のために無農薬栽培を始めたんです」と言う。しかし、樋口さんに会って感じられる温かい人柄のためか、それは一種の照れ隠しとしてそう言われたのではないか、と受け取ったとしてもそう遠くはずれてはいないと思う。最初は、そうだったかもしれない。けれども、・・・。
■自園自製
棚田で有名な福岡県浮羽町(うきは)の山間に樋口さんの茶畑がある。浮羽町は、今も昔からの棚田が大事に守られている地域で、2000年9月には全国棚田サミットの開催が予定されている。
樋口さんの「うきはの山茶」は、標高300〜500メートルのこの静かな山間の茶畑で栽培されている。摘み取られたお茶は自家の製茶工場で加工され、パッケージまでが行われている。
■20年近い無農薬栽培
それまでの農薬を使ったやり方から農薬を使わない栽培に切り替えたものの、農薬を使わないお茶作りは簡単ではなかった。
樋口さんが現在肥料として使用しているのはボカシ肥料である。ボカシ肥料とは、米ぬか、油かす、魚粉などの有機資材を有効微生物によって発酵させたものだ。この肥料を作る過程での切返しの作業は重労働だったという(現在は機械が使用され、負担は軽減されている)。
化学農薬や除草剤を一切使用せずに防虫や除草を行うことも大変な作業だ。栽培過程で漢方生薬や木酢液を使用することで茶園自体に活力をつけ、病害虫の発生を抑える。また、病害虫の駆除には、病害虫の天敵を利用する。どれも化学農薬を使用した場合と比べ、手間と労力がかかる。けれども、漢方生薬や木酢液は「裸で撒いても問題ない」という。
■無農薬、かつ美味しいお茶作り
化学肥料を使わなくなって困ったことのひとつは、味の問題だった。消費者はいつのまにか化学肥料を使って栽培されたお茶の味に慣れていて、樋口さんが化学肥料を使わないで栽培したお茶の味は物足りなくなっていた。
いくら無農薬栽培のお茶だといってもおいしくなければ消費者は買ってくれない。そこで化学肥料を使わずに消費者においしいと言ってもらえるお茶を栽培する必要があった。
おいしいお茶にするためにいろいろな品種のお茶がブレンドされ、今の「うきはの山茶」が生まれた。
■産地の特色が薄れている
お茶には何種類もの品種があり、それぞれ甘みが強い、渋みが強い、水色が良いなどといった特色がある。
しかし、味や香りが良く、収量も多いなどの理由から、現在、全国の8割近くの茶畑で「やぶきた」という品種が栽培されている。このため、以前は産地や問屋ごとに特色のあったお茶の個性が失われてきているのが現状だという。
樋口さんの茶畑では、「あさつゆ」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」など、十数種類の品種が栽培されている。樋口さん自身によって、商品ごとに数種類の品種がブレンドされ、自園自製ならではの個性豊かな味わいのあるお茶が作られている。
(取材日・2000年7月)
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